tojta 「畑を耕す」という動詞の意味の拡張

十勝の故沢井トメノから、次のような文を聞いたことがある。

Toj opusi wa jasai opitta kuetojta okere.
畑を耕して、野菜(の種)を蒔き終えた。

opusi は kuopusi の言い誤りであろう。

tojta という一項動詞は、toj-ta 「土を掘って収穫する」というのが本来の意味であると思う。

ta には、次のような用例がある。

turep-ta 「ウバユリの根を掘り出す」
aha-ta 「ツチマメを採集する」
sit-ta-p 「ツチマメを採集する道具」

aha-ta と sit-ta-p は旭川の故杉村京子から教えていただいたもの。

おもしろい例として、wakka-ta 「(回りに囲いをして水位を上げた湧き水から手桶などを用いて)水を汲み出す」というものもある。

toj-ta は、本来 toj opusi すなわち「土を掘る」「土を起こす」という意味だったのでなかろうか。それが沢井トメノの例では補充接頭辞 e- を取って、播種の意味に用いられている。

「紙」に当たる単語は、近文の故砂沢クラによれば kampi であるが、kampi は、「紙」「本」「手紙」の意味で用いられた。日本語の「雁皮(がんぴ)」(雁皮紙、シラカバ、マカンバ、ダケカンバ)の借用語と思われる。もと雁皮のじん皮を原料とする手漉き紙を意味する「雁皮」が、アイヌにおいて紙一般に、さらに書籍や手紙の意味で用いられるようになったが、このような意味の拡張を思い出した。