2007-01-01から1年間の記事一覧

アイヌ語数詞の特異な算術構造

アイヌ語の基本数詞は、20を表す hot を除いて、たとえば2を表す tu は、「2匹の犬」を tu seta というように、名詞(この例では seta 「犬」)を修飾するものだから、数連体詞と呼ばれることもあります。同じことを seta tu-p 「犬2匹」と言うこともできま…

tojta 「畑を耕す」という動詞の意味の拡張

十勝の故沢井トメノから、次のような文を聞いたことがある。 Toj opusi wa jasai opitta kuetojta okere. 畑を耕して、野菜(の種)を蒔き終えた。 opusi は kuopusi の言い誤りであろう。tojta という一項動詞は、toj-ta 「土を掘って収穫する」というのが…

popke は他動詞語根か?

金成マツのユーカラにはたびたび eshipopke という大変おもしろい動詞が出てくる。ただし述語としての用例はなく、 aeshipopkep わたしの着物 eeshipopkep おまえの着物 Poiyaumbe eshipopkep ポイヤウンベの着物 という名詞句の中に現れる。これらの名詞句…

主語に相当するものの抱合

近藤由紀さんが今翻訳している tokanto tokanto というサケヘのついた神謡(CM19.4)の冒頭近くに次のような文がありました。アイヌ語の抱合の可能性を考える上で重要な例だと思うので、メモを作っておこうと思いました。 shiripirikawa shikush kara ash aine…

「目次」を意味する aekirusi の由来

知里幸恵の『アイヌ神謡集』(1923年)では「目次」に Aekirushi というアイヌ語が当てられています.三年前『知里真志保フィールドノート』第3冊を編集したとき,凡例にその由来と思われることを書きましたが,余り読まれていないようなのでここに手を加え…

イトウ(魚)の名を持つ川

今晩,家内がコンサートに行ってしまったので「酒庵きらく」に飲みに行ってしまった.そこでJRの車内広報誌に記事を書いている女性と出会って,幸せな夕べを送ることができた.その女性は昨年,イトウの釣り師として高名な稚内の外科医のことを記事にした.…

再帰接頭辞 si- の逸脱した用例

「まことに優れている」ということを意味し、もっぱら連体修飾語として用い られる sisak という一項動詞がある。 shisak chiresu またとない養い(きわめて行き届いた養育) shisak rametok またとない勇者 shisak tonoto またとない(美)酒 などのように…