アイヌ語数詞の特異な算術構造

アイヌ語の基本数詞は、20を表す hot を除いて、たとえば2を表す tu は、「2匹の犬」を tu seta というように、名詞(この例では seta 「犬」)を修飾するものだから、数連体詞と呼ばれることもあります。同じことを seta tu-p 「犬2匹」と言うこともできま…

tojta 「畑を耕す」という動詞の意味の拡張

十勝の故沢井トメノから、次のような文を聞いたことがある。 Toj opusi wa jasai opitta kuetojta okere. 畑を耕して、野菜(の種)を蒔き終えた。 opusi は kuopusi の言い誤りであろう。tojta という一項動詞は、toj-ta 「土を掘って収穫する」というのが…

popke は他動詞語根か?

金成マツのユーカラにはたびたび eshipopke という大変おもしろい動詞が出てくる。ただし述語としての用例はなく、 aeshipopkep わたしの着物 eeshipopkep おまえの着物 Poiyaumbe eshipopkep ポイヤウンベの着物 という名詞句の中に現れる。これらの名詞句…

主語に相当するものの抱合

近藤由紀さんが今翻訳している tokanto tokanto というサケヘのついた神謡(CM19.4)の冒頭近くに次のような文がありました。アイヌ語の抱合の可能性を考える上で重要な例だと思うので、メモを作っておこうと思いました。 shiripirikawa shikush kara ash aine…

「目次」を意味する aekirusi の由来

知里幸恵の『アイヌ神謡集』(1923年)では「目次」に Aekirushi というアイヌ語が当てられています.三年前『知里真志保フィールドノート』第3冊を編集したとき,凡例にその由来と思われることを書きましたが,余り読まれていないようなのでここに手を加え…

イトウ(魚)の名を持つ川

今晩,家内がコンサートに行ってしまったので「酒庵きらく」に飲みに行ってしまった.そこでJRの車内広報誌に記事を書いている女性と出会って,幸せな夕べを送ることができた.その女性は昨年,イトウの釣り師として高名な稚内の外科医のことを記事にした.…

再帰接頭辞 si- の逸脱した用例

「まことに優れている」ということを意味し、もっぱら連体修飾語として用い られる sisak という一項動詞がある。 shisak chiresu またとない養い(きわめて行き届いた養育) shisak rametok またとない勇者 shisak tonoto またとない(美)酒 などのように…

おらのハポ

誤った思いこみが 27 年も続いたということを述べて,同学の諸氏の参考としたい(僕は猛烈に思いこみの激しい人間だから,余り参考にならないかもしれない).1979年 7 月 17 日(僕が 25 歳のとき),十勝川支流利別川河畔の町,本別にて農家をされていた沢…

uwekari という副詞について

せっかく地元札幌で言語学会があったのに,急を要する地名アイヌ語辞典の編纂に使うプログラムを突貫工事で作らねばならなかったので参加できませんでした.残念至極です.疲れた頭には,去年の三月に出した『知里真志保フィールドノート(4)』(北海道教…

樹木を意味する二つの単語

友人の高橋靖以君がいま翻訳しているアイヌの物語に poro chikuni hokush 「大きなチクニが倒れる」という句がありました.僕は以前から,というよりも,この30年間ずっと ni と chikuni の違いが分からなかった.旭川の砂沢クラ氏に尋ねてもどちらも「樹木…

父の葬儀に当たっての喪主(わたし)からの挨拶と父の詩一編

父弘雄永眠のおりは、皆様より深い哀悼のお気持ちをお寄せいただき、感謝の言葉もありません。父は医伯院慈海弘遠大居士という法名を授かり、また、本日は四十九日の法要を営むことができました。これも皆様のおかげと存じ、母、姉、弟とともに厚くお礼申し…

アイヌ語の「沢」を意味する naj の語源

金成マツが書き残してくれたユーカラの一節に炉を海にたとえた次のようなものがあります。「沖」とは炉のまん中のことで、陸(おか)とは炉の縁のことです。*1 rep-o-usat 沖の火種を ya-o-raye 陸にやり ya-o-usat 陸の火種を rep-o-raye 沖にやり tu uturs…

アイヌ語の地名を守れ

千歳市の千歳川筋に「桂木(かつらぎ)」という地名があります.14,5年前,そこに住んでいた小田イトさん,白沢ナベさんという二人のアイヌのおばあさんに,桂木の元の名は「ランコシ」と教わりました.もっとも,本来の音(おん)は Rankowsi ランコウシ(…

社名淵(シャナフチ)という地名

北海道文化財保護協会が出している『文化情報』第289号(平成18年5月1日)に北見の伊藤せいちさんが「遠軽町の社名淵の地名について」という好エッセーを書いています.二十数年前,松浦武四郎によって幕末に作られた北海道の地図『東西蝦夷山川地理取調図』…

狂躁状態

春の陽気でとても心が軽く、人が見たら、さぞかし無責任に毎日を送っていると 思うことでしょう。今年に入って、いよいよ金田一先生の『ユーカラ集』(9巻)を凌ぐ民話集を翻訳・刊行する準備を始めました。でも知里先生に関する原稿の締め切りが3月10日…

「真駒内」の由来

一週間前に初めてブログに書いて、その後、体の調子が悪くなり(自律神経失調症)、週の大半は寝床に転がっていたので、今朝までこのページが開けませんでした。今朝、一週間ぶりで見てみるとコメント欄にライブドアの勧誘が書き込まれていました。こういう…

初めまして

札幌 Satporo の真駒内 Makomanaj に住んでいる年の頃50余りの初老の男性です(谷崎潤一郎の小説に「年の頃四十ばかりの初老の男が」という文句があったと記憶しています)。1954年の3月に、北一条にあった市立札幌病院で生まれました。梅田望夫さんに「ゲイ…