社名淵(シャナフチ)という地名

北海道文化財保護協会が出している『文化情報』第289号(平成18年5月1日)に北見の伊藤せいちさんが「遠軽町の社名淵の地名について」という好エッセーを書いています.

二十数年前,松浦武四郎によって幕末に作られた北海道の地図『東西蝦夷山川地理取調図』の中に,「ヲトツテ」という未知のアイヌ語地名を見つけた.オホーツク沿岸地方,湧別川生田原川の川口より下手の左岸,今でいう社名淵川のあたりに書かれた地名だった.全く意味不明の地名であった.

一方,「社名淵」は,明治二十年の『改正北海道図』の「サナチ川」,明治二十四年の『北海道蝦夷語地名解』,明治三十年の『陸地測仮製五万分図』などの「サナプチ」に遡ることができるが,江戸末期までには遡ることはできないようであった.

しかるに昭和六十年に刊行された武四郎著,秋葉実解読『戊午東西蝦夷山川地理取調日誌』に「サナブチ」が出ていた.その挿入図には,『取調図』の「ヲトツテ」にあたる所が「サナフチ」と書かれていた.「ヲトツテ」に出会って十二年目のことであった.さらに,秋葉さんにより武四郎の『西蝦夷日誌』,『手控』が刊行されたが,そのおかげで一層確かなことを知り得た.

「ヲトツテ」は「サナフチ」の写し間違えであった.ヲがサの,トがナの,ツがフの,テがチの間違えだった.

伊藤さんは「これほど見事に全体がまちがった例は,初めての出会いであった」と書いています.

アイヌ語地名研究の難しさがよく示されたエッセーだと思い紹介する次第です.ただ残念なのは,「サナプチ」の意味が我々にはまだわからないということです.

シャナフチは遠軽町の北部にあります.親父が勤めていた遠軽中央病院の分院があって,親父は週に一回そこに通っていました.また,祖父がシャナフチの木材で財をなしました.思い出深いところです.